コラム(エピソード②)

「家族に言われて・・・」

これもデイサービスの頃のお話しです。
90歳の男性、H様との出会いは無料体験でした。
きっかけは「家族に言われて無理やり」でした。
初めの頃「僕はこんなところ(介護施設)へは来るつもりじゃなかったんだよ」と何度か言われていました。
でも正式な利用が決まり、朝お迎えに行くときちんと出てきてくださり「お世話になります」と落ち着いた低い声でごあいさつをしてくださいました。

デイサービス(通所介護)では、本人様が否定的な場合、正直現場は悩みます。
最初の印象が悪かったり、利用が始まってもいつ「もう行かない!」と言われるかわかりません。
初日はゆっくりと過ぎしていただきながらも、管理者として、新規のお客様の対応を担当する私はほとんどの時間を1対1でお話しのお相手をさせていただきました。
歴史がお好きなこと、この方は好きというより歴史については博学でまるで博士のような方でした。
将棋もお好きで、将棋ができる職員と次第にいつの間にやら、対局の場面も珍しいことではなくなっていきました。
5月の誕生日には91歳のお祝いもさせていただけました。

でも、夏ごろから体調を崩され、デイサービスに来られるものの、静養コーナーで横になることが多くなりました。
手作りのお昼ご飯もほとんど食べられないようになってしまいました。
体調のすぐれないことはバイタル(体温・血圧など)でも、見た目でもわかるようになってきました。
大きく出ていた恰幅のよいお腹もしだいに小さくなっていかれました。
歩く姿も弱々しくなり、転倒のリスクも高くなりました。

デイサービスで長い時間を過ごせなくなってくると、急な時間の変更で管理者の私が自宅までの送りを対応させていただいていました。
ある日の帰りの車の中での言葉です。
「高岡さん、ありがとう。あなたが家に来てくれた最初の日を覚えているよ。あなたが一生懸命に誘ってくれたから、今はね毎日が楽しいね」
「ただね、僕はもう91歳になったね。この年になってこんなに楽しい毎日が送れるとは思わなかったよ。ただね、だからね、もう少し、もう少しだけ、あなたたちといたいね。僕はずっと一緒にいたいよ」

それからしばらくして入院されました。

私は、あの言葉を忘れません。
私の今の仕事のお守りです。

グループホームふきのとう管理者:高岡淳子

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